亀にほくそ笑んで

第1章シンガーオンザロード

俺は駅のタクシー乗り場の前にどかっと腰を下ろした。皮の剥がれたギターケースを開け、ヤマハのギターを引っ張り出しチューニング。くそっ。ずいぶん前からチューニングが合わない。

夜の11時の駅前には人。人。人。ネコ。人。男。女。どっちかわからん奴。酔っ払い。

ああ酔っ払い、、、君たちが俺の些細な経済を支えている。俺がこんな路上で弾き語りをする気にさせてくれるのは、酒に飲まれて視界をメリーゴーランドみたいにグルグルさせて俺にチップをくれる、そんな素敵な彼らのおかげだ。

俺は彼らが最骨頂に偽物の幸せホルモンを活発にさせて、さあ気持ちよくあったかい家に帰るぞって時間を狙ってここに座る。

そして俺の歌だ。まあ大した歌じゃない。大半が洋楽のカバー。oasisBeatlesにディラン。デイブァンロンクのhungmeは俺のお気に入りだ。

飽きてきたら俺の曲。でも自分の曲を歌うと気が滅入る。ただでさえ滅入っているのに自分の過去の過ちをただただ懺悔する曲を歌うのは酷だ。

そうして今夜も始まる俺のショー。大体の人はみんな素通りか、目の前でイヤホンをつけるか、あるいは睨まれるか、唾を吐かれるか中指を立てるか。なんで中指なんだろうな。薬指や小指は?全く女性差別はいかん。

まあそんな程度だ。

酔っ払いの連中にはアタリハズレがある。アタリの時は俺の歌を虚ろな目で真剣に聞いてくれる。時には涙まで流してくれる。チップも気前がいい。ハズレはダメだ。人をクソ野郎呼ばわりする。

おう、クソ野郎。なんか歌えよ

ハズレだ。

何がいい?俺はiPodじゃないから曲数はかなり限られてるけど

セックスピストルズだあ。俺の青春なんだよお。歌えるか?いけるか?

アコギじゃ無理。他のは?

アーイアームアーナーンチキリースト!!

千鳥足の華麗なるステップで登場した最初のお客様はガリガリに痩せたスーツの男。歳は40ぐらいか?普段は臆病で使えない汚い言葉を使ってるとこから察するにだいぶ飲んでいる。

そしてアカペラのピストルズを気持ち良さそうに歌っている。

なあ、おっさん。落ち着けって。ほらみんな見てるし、、歌は帰って歌いなよ、な?

どの口が言ってるんだ若造!お前こそ歌なら帰って歌え!

もう1人のおっさんがご来店。だがこいつはシラフだし客じゃない。自称ここらへんの警備員だ。

またあんたか。俺は魂を込めてここで歌ってる。でも彼は違う。彼はただ酒と自分に酔って歌ってるだけだろ?なんの思想もないどこぞのポップなアーティストだよ。

お前は違うのか?俺には一緒に見える。

違うね。

いや、同じだ。誰もお前に興味はない。

だいたいあんたには関係ないだろ?あんたは毎回俺にケチをつけるがあんたは警察でも警備員でもない。

俺はこの地を神からさずかったんだ!

神はあんたの事嫌いらしいぞ

神への無礼は許さん。

神なんか大嫌いだ!!

小僧!!

すると歌ってたおっさんがこう言った。

神は存在する!!こんないい夜に出会えたんだ!!お前は才能がある。売れるよ。クソ野郎。

そういって1万円札を俺のギターケースに放り投げた。

1万円札は気だるそうに舞って、落ちた。

俺はそれを見た。それから自称警備員のおっさんを見て首を傾げた

いつかお前にはバチが降り注ぐ。その事を忘れるな。

そう言って自称警備員のおっさんは夜の人並みに消えて言った。

ところで、この世界には音楽が溢れてる。

ロック、ソウル、ラップ、ポップ、レゲエ

いい音も悪い音もある。

この世界もそうだ。いい奴もいれば悪い奴もいる。

この先どうなっちまうんだ?思想がなくなった音になんの意味がある?

この世界のヒーローは誰だ?クソみたいな事件を消してくれる奴は誰だ?この時代のジョンレノンはどこにいる?

間違ってもあのアナーキーなおっさんでも自称警備員のおっさんでもない。

俺とも思ってない

なら誰だ?俺をじろじろ見てる通りすがる人たちは、あの日の英雄とは似ても似つかない。

平和をこの手安静をこの手に

広告を非表示にする